カルロ・クラッコは1965年生まれのイタリア人シェフ、テレビ番組の司会者。イタリア北東部に位置するヴェネト州でホテル関係の専門学校を卒業後、ヴェネチアのレストランでしばらく働いたのち、1986年にミラノで働いていたシェフ、グアルティエーロ・マルケージ氏とコラボレーションをしたことが大きな転機となる。イタリア中部にある都市、サヴォーナにあるレストラン『ラ・メリディアーナ』で働いた後、フランス料理を学ぶ為にフランスへ渡る。三年後イタリアに帰国し、フィレンツェにある三ツ星レストラン『エノテカ・ピンキオーリ』(当時は二つ星)でシェフを務め、数年後には『クラッコペック』という名のレストランのエグゼクティブ・シェフに就任。2007年以降、『クラッコ』という名で親しまれ、同年にはイタリア最大の部数を発行する日刊紙『ラ・レプッブリカ』にて、世界のベスト・レストラン50にランクインした。2011年にはテレビ番組『マスター・シェフ・イタリア』の司会を務めるようになり、2014年以降は『ヘルズ・キッチン・イタリア~地獄の厨房~/シーズン1・2』のホストにも抜擢された。
ワカペディアが見るカルロ・クラッコ
青い瞳に黒い髪。筋の通った綺麗な鼻に、背は180センチ以上のすらっとした男性。誰の話をしているのだろう?俳優さん・・・ではないのです!チャーミングな外見で多くの女性を虜にしているのは、今イタリアで最も有名なコンテンポラリーシェフ、カルロ・クラッコ。テレビ番組『ヘルズ・キッチン』で有名なスコットランド出身のシェフ、ゴードン・ラムゼイのような存在だ。二人とも自身の持つレストランはミシュランの星を獲得していて、テレビにもよく出演している。どちらもすごく斬新で、それぞれ異なるスタイルの面白い料理だけれど、何より、テレビや写真で見るよりも本物のカルロ・クラッコはずっとかっこいい!あのイタリアっぽいダンディーなセクシーさを見ると、ミラノ育ちイタリアびいきの私としては、3対2でイタリアの勝ちだと勝手に思っている!そんなカルロの出身は、イタリアでも結構訛りの強いヴェネト州。一見、とてもダンディーでセクシーなシェフが、口を開くとズーズー弁を話している姿は、なんだかとても人間味があって親しみやすい(笑)。
その一方で、個性が目立つビッグ・アーティストによく見受けられるように、親しみやすい反面、少々気難しい人のようだ。料理に関しては、コンテンポラリーの要素がありつつも、デコレーション自体はいたってシンプル。シンプルな食材をアレンジして食べる人を驚かせたり、卵を面白くアレンジするのも特徴と言えるだろう。彼の料理からは、ぬくもりが伝わってくる。3年前に食べたけれど、今でも記憶に残る料理。それがクラッコなのだ。
彼のレストランは、ミラノの中心地ドゥオーモから徒歩5分のところにある。最近オープンしたカルロ・エ・カミッラ・イン・セゲリーアというビストロは、今でもお気に入りのレストランの一つだ。パリにあるパレ・ド・トーキョーを彷彿とさせるこのレストランだけれど、昔は工場だった。打ちっぱなしのコンクリートに、天井が高い室内。頭上には高級感のあるシャンデリアがきらめいている。当時の建物をそのまま残して、店内には存在感のある長いテーブルが2つ置いてあるだけ。テーブルの上には、リチャード・ジノリのティーポットが並べられ、それがテーブル番号になっているのも素敵なアイデアだ。まるで最後の晩餐を連想させるようなテーブルセッティング。こんな素敵で話題のレストラン・シェフを、ワカペディアがインタビューしないわけにはいかない!さあイケメンシェフの話を堪能しよう!
サラワカ:チャオ、カルロ!2年間ずっと追いかけて、やっとインタビューさせてくれたね。さぁ、お願い!あなたのストーリーを教えてくれる?
カルロ:そうだね、どこから始めればいいの?
サラワカ:もちろん、生まれた時からだよ!(にやり)
カルロ:うそだろ?!二日間くらいかかるけど、聞く時間はあるかい?(笑)
サラワカ:二日はちょっと長すぎるから、濃厚ジュースみたいに凝縮して話してくれる?(笑)
カルロ:僕が料理に興味を持ったのは、結構遅かったんだ。小さいころはそこまで料理に興味は無くてね。でも、美味しいものを食べることは本当に大好きだったんだ。だから小さいころは、自他共に認めるおデブちゃんだったのさ!
サラワカ:え?!おデブちゃん?!今でこそイタリア料理界のセックス・シンボルともなってるようなカルロが?!
カルロ:本当さ。だから10歳の時、初めて母親にダイエットをさせられたんだけど、すごくショックだったね。今でも食べることは大好きさ。それが僕と食との関係の始まりかな。その後は、ホテルの専門学校に進学したよ。
サラワカ:そうなんだ。確かにホテル関係なら、食べ続けることもできるしね!(笑)
カルロ:その通りさ!最初はバーテンダーになりたかったんだけど、フロアの仕事もやらなければいけないこともあって、それならキッチンで働きたいと思って始めたのがきっかけだよ。すると成績もどんどん上がっていって、本格的に料理に興味をもつようになったんだ。ミラノ、モンテ・カルロ、パリ、フィレンツェと、色んな都市のレストランで働いたけれど、なにより大きかったのはグアルティエーロ・マルケージ氏との出会いかな。経験を積んだ後、最初にピエモンテのアルバで自分のレストランを始めたんだ。4年間働いてミラノに戻りたくなった頃に、イタリアの高級惣菜店『ペック』から声がかかって、一緒に仕事をすることになったんだ。こうしてドゥオーモのすぐ近くにあるレストラン『クラッコ・ペック』で15年間働いた後、2007年に独立して自分のレストラン『クラッコ』を開いたよ。
サラワカ:昔からイタリアとフランスとの間には、食に関してすごい競争心があるよね。カルロにとって、フランス料理とは?影響はあった?
カルロ:もちろんあったよ。フランスではビッグなシェフたちと働く機会があったからね。アラン・デュカスやルーカス・カートンとも働けたし、彼らからは沢山教わったよ。それがきっと、僕の料理の哲学となるベースを作ったんだと思う。今思い返しても、あれが当時のアヴァンギャルドなフランス料理だったと思うよ。
サラワカ:当時からアヴァンギャルドの影響を受けていたとは!イタリア人だとは思えない!(笑)そういえばさっきキッチンで見えたんだけれど、海苔を使っていたよね?日本料理からも影響を受けているのかな?
カルロ:ははは!君はまるでスパイみたいだね!(笑)うん、僕は日本食が好きだけど、何より日本人の食材一つ一つをリスペクトするその考え方が大好きなんだ。マニアックともいえるような、細かいこと全てに対して気を遣うし、とても大切に扱うんだ。一つずつ丁寧に、綺麗に作っていく。それが芸術になるからすごいよ!僕は、それぞれの素材を大切にして生かすという意味で、イタリア料理の哲学とも似てると思うんだ。ソースは控えめ、味を消さないように素材の個性を出していくんだ。違いといえば、日本料理は見た目はとてもこじんまりしているけれど、イタリアはパスタがどっさり出てきたりして、とても家庭的で大胆だよね。どちらも違う料理だけど、その中でも似ている部分はあって、どちらもシンプルさの中に美味しさが詰まっているんだ。
サラワカ:私のことを褒めてるわけじゃないのはわかってるんだけど、なんだかそう言われると、とても嬉しいよ!(満面の笑み)カルロは、特に奥様方とか女性にすごい人気があるよね。テレビ画面の中で仕事をするのと、レストランで仕事をするのは、どちらが好き?
カルロ:そんな、大げさな(笑)。これまでイタリアは、料理の世界に対する関心はとても薄かったから、テレビという媒体は、色んな人達が料理の世界に興味を持たせるきっかけとなったこともあって、とても大きい存在だよね。僕が出演したテレビ番組『マスター・シェフ』や『ヘルズ・キッチン』を通して沢山の女性、男性、子供にまで興味をもってもらえるようになったのは、本当に嬉しいよ。なにしろ、こういう料理を食べれたのは、前はごく一部の限られた人だけだったからね。これまでレシピに関しては企業秘密として語られることが無かったし、とても閉鎖的な業界だったけれど、テレビのお蔭で人々の知識が全国的に広がって、一般的に開かれてきたように思うよ。今では、多くの人が塩の種類や肉の切り方、焼き方の違い等がわかるんだ。これは、メディアが台頭してきた利点だと思うよ。
サラワカ:本当にそうだよね!イタリアは日本と違って、皆が料理に興味を持っていたわけじゃないからね。日本では、テレビをつければ、ほぼ毎日料理番組が放送されているくらいだけど・・・(笑)ところで、カルロはアートにも興味があるよね?マウリツィオ・カテランとも親交があるみたいね。
カルロ:うん、彼のことはよく知っているよ!彼は、本当にイマジネーションの塊だと思うよ。彼の考え方はとてもオリジナルだし、あの想像力はアーティストとして天才だと思う。僕にとってアートとは、最も美しい表現方法だよ。食も一つのアートとしての形であると思うけれど、一般的にアートと呼ばれる中では、僕にとっては音楽が一番かな。
サラワカ:そうなんだ!どんな音楽を聴くの?
カルロ:クラシックからコンテンポラリーまで何でも聴くよ。本能の赴くまま、感情に働きかけるようなメロディを流すんだ。すると気づくはずさ、人生では全てを説明することができないものがある。生きていく上で最も美しいことは、頭で何かを理解することじゃないんだ。何かを感じることなんだよ。
サラワカ:(尊敬のまなざしで)カルロ、今日は本当にありがとう!業界の裏側も見せてくれたし、沢山話を聞かせてくれたね!まるであなたの料理みたい!!ねぇ、もうそろそろお腹が減ってきちゃった。これで味覚も含めて、ようやく私の五感全てであなたの料理が味わえるね!(笑)
カルロ:もちろんだよ、マダム。こちらへどうぞ。
頭も心も一杯になったサラワカは、お腹を満たす為、クラッコの後についてレストランへと向かった。
Description & Interview: Sara Waka
Edited by: Yuliette
Photo by: Ivan Grianti