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Museo Internacional del Barroco

伊東豊雄(いとう とよお)は韓国ソウル生まれの日本人建築家、一級建築士。1941年に日本統治時代の現・大韓民国ソウル特別市にて生まれ、長野に移住したのち、1965年に東京大学工学部建築学科を卒業。菊竹清訓設計事務所に勤め、1971年にはアーバンロボット(現・伊東豊雄建築設計事務所)を設立。その後はコロンビア大学・東京大学・東北大学・多摩美術大学に客員教授として携わる一方、2001年にはグッドデザイン大賞2002年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展、金獅子賞を受賞。日本建築学会賞においては二度受賞しており、2006年には王立英国建築家協会RIBAゴールドメダル2013年には建築界のノーベル賞とも称されるプリツカー賞を受賞するなど、世界の第一線で活躍している。2011年には、愛媛県に同氏が手掛けた今治市伊東豊雄建築ミュージアムが開館した。建築と環境の関係性を重要視し、柔軟で斬新なアイデアを体現化するその作品は、国内外から注目を集めている。国際的に活躍する一方で、若手の建築家を輩出する教育者としての評価も高く、世界の建築界を牽引する人物でもある。

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Sendai

デザインの町ミラノが世界的に一年で最もアツくなる時期、それがミラノ・サローネ(通称:デザインウィーク)!日本を代表する建築家・伊東豊雄さんと出会ったのは、7年ほど前にHORMという様々なデザイナーの作品を扱う会社でサラワカがアルバイトをしていた時だ。初めて目にした豊雄さんの作品は本立てであり、HORMのデザイン家具の中でも一番印象的だったのを覚えている。通常、本立ては本という重い物を整理する為のものであるはずなのに、豊雄さんがデザインした本立てはとても繊細で透明感があるもので、サラワカは誰が作ったのかも知らないまま、そのコントラストがとてつもなく気に入った。HORMでデザイナーをしている友達のレナート・ザンベルランは笑って「さすがサラ!日本人だけあって、日本人の作品に目が留まるんだね!」と言った。デザイナーが日本人だなんて思いもしなかったので、当然その言葉の意味さえ分からなかった。それに対して彼は、「まさか日本人の君が、日本のトップ建築家の一人でもある伊東豊雄を知らないわけじゃないよね?」と言うものだから、強がったサラワカは「まさか~、もちろん私は日本人なんだから知ってるに決まってるじゃない!」と苦笑いをしながら返し、その後こっそりグーグルで調べたのだった。リサーチしてみると、彼が手掛けたTOD’Sやミキモトのビルなど、すでに何度か見た事のあるものが目に留まった。このビルもそうだったんだ!と、その時初めて彼がどんな人物かを知ったというのは、ここだけの話。あれから6年後、あの本棚をデザインした当本人と、彼の通訳、そしてワカペディアチームのジュリア・ビゾンを含めた4人でご飯に行くことになるなんて想像さえしていなかった。ましてその後サラワカが働くミラノのプラダ美術館を案内することになるなんて、この時は夢にも思っていなかった!

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ワカペディアの見る伊東豊雄

【豊雄さんのストーリーはワカペディアのサラワカ、ジュリア・ビゾン、そして豊雄さんが頼りにしている同時通訳のジョゼッぺ・ジェルヴァージオさんと、シチリアの料理が運ばれてくるテーブルを囲んで始まった。このディナーで一番気が利いて皆の為に動いていたのは、今回の主人公である豊雄さんだった!】

サラワカ:あ!さっきから全然気が利かなくてごめんなさい!ワインまで注いで頂いちゃって…ありがとうございます(笑)ところで豊雄さんって、ワインが好きなんですね!

トヨオ:そうなんだ、フランス産もイタリア産もすごく好きなんだよ。2011年に開館した、今治市伊東豊雄建築ミュージアムがある愛媛県大三島では、みかんの栽培をしているんだけど、島の魅力をもっと多くの人に知ってもらおうという観光プロジェクトの一環で、最近はブドウの栽培も始めてね。これからはワインも作ろうと思っているんだよ。

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Toyo Ito Museum of Architecture

サラワカ:その建築ミュージアムって、豊雄さんの作品を展示してるスティールハットと旧邸宅を再現したシルバーハットの二棟がある、施設自体が展示物になってる建築美術館ですよね?(ディナーに向かうタクシーの中で、こっそりジュリアと豊雄さんの事について勉強したサラワカ)建築ミュージアムでワインを作るって、なんかおとぎ話みたい! そんな豊雄さんはいつから建築を始めたんですか?

トヨオ:僕は遅かったよ。実は、高校で野球をやっていた影響で、大学野球のトーナメントで明治神宮球場に行きたいなと思ってね。東大だったら神宮球場に出れるんじゃないかと思ったのさ。最初は文科一類(法律・政治系)を受験したら失敗して、これではダメだということで野球を諦めた後、浪人してから理系に変えたんだ。東大は入学後に専攻学科が決まるんだけれど、駒場で遊んでいたら行ける学科が限られちゃって、その中で成り行きで選んだのが建築だったんだ。だから、もしもう少し出来が良かったら建築は選んでいなかったね。(笑)

Kikutake-Kiyonori-Miyakonojo-Civic-Center-1966-Miyazaki-Japan-Photo-Shinkenchiku-sha-1サラワカ:成り行きで建築家になってここまで来たなんて、すごいな~!(笑)絵は昔から書くのが好きだったんですか?

トヨオ:まぁ、小さい頃から書くのは好きだったけれど、アーティストのようには書けないよ。245歳の時だったかな。大学を出てすぐに建築家の菊竹清訓氏(高度経済成長に合わせて有機的に成長する都市などを提案するメタボリズムという建築運動を提唱した若手建築家グループの一人としても知られている)の事務所でお世話になって、そこで初めて建築が面白いと思ったんだ。30歳で独立して、30代はずっと住宅を手掛けていたよ。当時は外で飲むようなお金がなかったから、よくお酒を買ってきては事務所で朝まで建築仲間と一緒に飲んだものさ。その頃は暇な時間が膨大にあったから、仲間と「お前の建築はくだらないぞ!」なんて議論を交わしながらね。(笑)

サラワカ:そうだったんだ~!大切な仲間との時間ってすごく大切ですよね!

トヨオ:本当にそうだよ。今の人達は若い時から忙しいから、そういう時間を作ることを知っておかないといけないかもしれないね。今思えば、あの時間は本当に貴重だったよ。

サラワカ:それじゃあ私達も、安いワインを片手に、酔っ払いながら仲間とディスカッションをする時間を設けるって約束します!・・・って言いたいところだけど、実はもうすでにやり過ぎてるかも!(笑)ところで豊雄さんは、デザインする時のインスピレーションはどこから受けているんですか?

トヨオ:僕は小さい頃に田舎で育ったから、すごく自然が好きなんだ。だから水とか森とか葉っぱとか風、そういう自然のものや現象が建築やデザインになったりしているよ。あとは、建造物が周囲の環境にしっかり溶け込むことを目的として設計しているから、作品には革新的な技術を用いて、自然の要素を構造の中に取り込むように配慮しているよ。

ジュリア:私はワカペディアでアートディレクションを担当しているけれど、自然の要素を沢山取り入れている豊雄さんの建築は、私にとってもすごい良いインスピレーションなのよ! 豊雄さんは、日本とイタリアのデザインの違いって感じますか?

トヨオ:日本も秋にデザインウィークがあるけれど、ミラノのデザインウィークとはレベルが全然違うし、やっぱりイタリアのデザインはすごいと思うよ。最近の若手デザイナーはCMに出て売れることが多くなってきているようだけど、僕はあまり個人的には好まないかな。やっぱり僕は、アンドレア・ブランデ氏の世代がすごく好きなんだ。特に好きなデザイナーは、エットレ・ソットサスアレッサンドロ・メンディーニアンドレア・ブランジかな。日本のデザイナーでは、倉俣史郎氏が好きだね。個人的には、日本のデザインはもうここで完結したんじゃないかって思うほど、日本のデザイン史上に大きなインパクトを与えたし、革命的だったと思うんだ。

ジュリア:へえ~、なるほど!私はアートディレクションをする中で、夢やビジョンを実現化することが好きなんですけど、建築やデザインをする上でも同じことが可能ですか?

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Shiro Kuramata – Miss Blanche

トヨオ:それこそ、さっき話していた倉俣さんがしていたことなんだよ!インテリアデザイナーの彼が追求したのは、「夢心地」だったんだ。その中でも特に彼の作品でもある「ミス・ブランチ」という椅子は、アクリルの中にバラの造花が散りばめられていて、彼が夢に見たものを実現化させた作品なんだ。

サラワカ:やっぱり夢は見続けないといけないんだ!ワカペディアの他のメンバーにもそのことちゃんと伝えておかないとね、ジュリア!(笑)そういえば豊雄さんはテレビに出て有名になることはあまり好きじゃないって話していたけれど、こんなに色んなところで活躍していても、スターキテクト(英語の『建築家:アーキテクト』と『スター』から形成された造語で、国際的に知られている建築家という意味)ではないんですか?

トヨオ:僕はどちらかというと地味だから、ひっそりと生きる方が好きかな。(笑)

ジョゼッペ:僕は先生の通訳を長年担当しているけれど、他の人と比べても、先生はすごくインタビューが上手なんだ。2012年のヴェネチア・ビエンナーレ(2年に1回開かれる美術展覧会)では一社につき10分くらいのインタビューが毎日30社ほどあって、朝10時から18時まで休み無く受けていたよ。それだけ質問を受けると、当然似た質問をされることがあるんだけれど、先生は一つ一つの質問に対して毎回違う答えを返すんだ。本当に先生は話題が尽きない人だよ。

サラワカ:そうなんだ!それじゃあ私も同じ質問を何回かしてみようかな!(笑)

トヨオ:ははは、やってみる?もうすでに忘れてるから、同じことを言えないだけだよ!

(爆笑)

スターキテクトとも呼べるような、世界を股にかけて活躍する建築家は、その肩書に似合わずとても素朴で、みんなの料理さえ率先して取り分けるような謙虚な人だった。彼の性格が建築に表れているように、その素顔はまるで自然と一体化しているような、とても繊細で癒される心地よさだった。こうしてお腹も心も満たされたワカペディアメンバーは、満足気にテーブルを後にした。

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Toyo Ito – SaraWaka – Giulia Bison – Giuseppe Gervasio

Description & Interview: Sara Waka

Edited by:Yuliette