今年で国交150周年を迎えるイタリアと日本。その記念として、ミラノでは葛飾北斎の浮世絵展や日本にちなんだイベントが開催されており、中でもイタリア人作曲家プッチーニが作曲したオペラ『蝶々夫人』は、今回世界的に有名な劇場『ミラノ・スカラ座』 のオープニング・オペラに選出された。国際的に有名なイタリア人指揮者、リカルド・シャイ氏が指揮をとるということもあり、オペラファンにはもちろんのこと、『ジャパニーズ・カルチャー』がブームとなっているヨーロッパでは話題沸騰中だ。イタリアを代表するブランド、『アルマーニ』や『ドルチェ&ガッバーナ』をはじめ、イタリアの有名なデパート『リナシェンテ』のショーウインドウがこぞって『蝶々夫人』のデコレーションになるなど、日本一色に染まるミラノをチェック!
【来日経験の無いプッチーニが創り出したオペラ『蝶々夫人』は間違いだらけ?】
19世紀末から20世紀にかけての日本が舞台となっている『蝶々夫人』は、開国後の長崎に来航したアメリカ人の海軍士官と芸者の切ない恋の物語だ。日本が舞台という作品でありながら、一度も来日経験の無いプッチーニが描いた『日本』はとてもユニーク。例えば、家の中に役者が土足で上がるシーンや、蝶々夫人の叔父が自分の姪をさん付けで呼ぶシーン。仏教と神道がごちゃまぜになったりするなど、日本人が見たら思わず笑ってしまう場面も少くない!
【本物の日本を知ってもらいたい!そんな日本人・イタリア人の思いが詰まったイベントが開催】
そこでもっと『本物の』日本文化を知ってもらおうと、スカラ座ではミラノ大学が主催するカンファレンスが行われた。プレゼンターの中には、オリジナルの『蝶々夫人』をベースにしつつ、日本の文化を正しく伝えるために演出し直すことを目指した国際的オペラ歌手、岡村喬生氏の名前も。日本からは能楽者や日本美術関係者、そして日本文化を研究するイタリア人など、双方の視点から日本文化が紹介された。こうして日本とイタリア両者の協力を得た今年の『蝶々夫人』は、一段と奥深い作品に仕上がった。
【ファッション好きにはたまらない!スカラ座で大注目の着物展示会】
これまで様々な形を変えて公演されてきた『蝶々夫人』の衣裳達には、おしゃれなミラノっ子も大注目!まず話題となっているのが、海外で活躍した日本人画家の先駆者でもある藤田嗣治が、生涯で唯一デザインを手掛けたオペラ舞台用の着物。彼独特のスタイルは、イタリアを代表する歌手のマリア・カラスにも愛用されたほど。今回展示されている着物は、乳白色を特徴とした薄い水彩画のような淡い色と、深みのある色が見事にグラデーションになっていて、中には春に咲き誇る花を連想させるようなピンクや、夕焼けの空をイメージさせるようなオレンジが使われている。
他にも、舞台衣装デザイナーのカランバが1925年に蝶々夫人の公演に向けデザインした着物が展示されている。アールデコの影響を受けた着物に、レトロな扇子や太鼓がデザインされている。生地には黄緑や紫などのとてもはっきりした色が使われており、いかにも舞台映えしそうなカランバならではの色合い!
展示物の中でも特に目を引くのは、日本ファッション界ではパイオニア的存在のデザイナー・森英恵氏が1985年にデザインした着物。黒いシンプルな布地に葛飾北斎の浮世絵で知られる赤富士が描かれていたり、上品な紫色の生地に白い蝶々がひらひらと飛ぶようにデザインされた着物、それに蝶の形をした帯を加えたりと、とても女性らしくてファッション的な要素が多く見受けられる。実はイタリアで紫色とは死を意味するため、この色をオペラの舞台衣装に使ったということは、イタリア人にとってはとても大胆で衝撃的な内容だったのもポイント。
【今年の『蝶々夫人』での注目ポイントは、ズバリこれ!】
今回スカラ座で公演された『蝶々夫人』は、なんと150年ぶりに復活した初演バージョン!初日公演のロイヤルボックスのデコレーションはドルチェ&ガッバーナが手がけ、桜で華やかに飾り付けられた。注目された着物のデザインは、着物とドレスを混ぜ合わせたようなデザインで、裾がふんわりとしている。照明の加減によって色合いがより薄くなり、素材が光を含むことで、柔らかい印象に見え、春の花に舞う蝶々を連想させる。劇の内容としては、さすがオリジナルバージョンとだけあって、江戸時代が終わっているはずなのに、平安時代風の着物を着た藩士が出てきたり、男女問わず日本人の顔がまるでバカ殿様のように真っ白に塗られていたり、蝶々夫人の女中の歩き方が、奥ゆかしいを通り越して、ルンバに乗っている猫のようにスーッと動くなど、日本人から見るとツッコミどころ満載なところは、相変わらず健在だった。それでもホールに響き渡る圧巻のリカルド・シャイによる素晴らしいオーケストラと、躍動感のあるオペラの歌。スカラ座の豪華かつ上品な装飾の全てが調和し、見ている観客をオペラの世界へと引き込んでくれる。ミラノにとってスカラ座の初日公演は、限られた人しか入れないため、世界中から集まったVIPやセレブ達が思い切りお洒落してくる。まさにこの日こそ、ミラノにとって一夜限りのグラマラスナイトなのだ。
Articolo: Yoka Miyano Edited: Yurie. N
Foto: Ivan Grianti, Brescia/Amisano – Teatro alla Scala